ISOマネジメントシステム規格の
気候変動への配慮(追補版)への対応について

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専門家に話を聞く

今回の追補版発行について、ISO 9001規格開発の日本代表エキスパートを務める株式会社テクノファの須田晋介氏に、追補版が発行された背景や、組織としてはどのような対応が求められるのかを伺いました。

追補版発行の背景

気候変動については、TMB※1で決められ、すべてのISO国際規格に一律で入りました。
ISOMS規格に入ってきた趣旨は、『ISO』が2021年に発行した『ISO Strategy 2030』(ISO戦略2030)※2の中で、2030年までにどのような取組みを行うかを発表しました。そこで、環境に関わるサステナビリティな貢献、気候変動に関する貢献としてMSの活動の中で気候変動への対応を採用しました。 気候変動に関しては、欧州の要望も強かったのですが、世界的に共通の課題であるため品質、環境、情報セキュリティ等の枠にとらわれることなく、すべての社会で、みんなで取り組む課題として一律で採用しました。

ISOの組織図

  • 出典:「ISOの概要 ~1.ISOの組織図~」(日本産業標準調査会ウェブサイト)
  • ※1 TMB:Technical Management Board(技術管理評議会)
  • ※2 『ISO戦略2030』で、ISOは「生活をもっと楽で安全で良いものにする」というビジョンを発表。その足がかりとして「どこでも使用されるISO規格」「世界のニーズに応える」「すべての声に耳を傾ける」という3つの目標を掲げている。ISO戦略2030は、国際規格と同様、定期的に見直し改訂される。

企業としての対応

箇条4.1「組織及びその状況の理解」に関する関連

まず「課題であるかどうかを決定しなければならない」と書いてあります。
ISOの仕組みとして外部及び内部の課題かどうかの検討の場がそこにあり、企業にとって関連する課題であるかどうかを決定するのが要求事項です。気候変動に関わる情報がインプットされ企業にとって課題かどうかを、まずは検討することです。

関連しない場合もある

例えばQMSでは、製品やサービスの品質を要求通り提供し続け、顧客満足度の向上を図ることが目的ですから、気候変動に取組むことでそれらに貢献するならばいいのですが、例えば電球をLEDに交換したことが、要求事項に適合したものをお客様に届ける体制に影響するのかどうか。作業への影響が変わらないのであれば、それはQMSの範囲ではない。
しかし、運送会社なら、これまでは指定された時刻に届けることが出来ていたとしても、今年の冬のように大雪が降る回数が増えたら配達出来ません。すると気候変動が指定時刻通りに配達するという、お客様の満足に影響するということになります。

気候変動というと、自分たちが気候変動に「与える影響」と、気候変動から「受ける影響」があります。まず、この両面からきちんと検討しなければいけない。
QMSでは、品質としてどう関わってくるのかということです。品質は厳密に追求すると、顧客要求事項か法令規制要求事項で、CO2など環境関係のものが要求されます。
例えば顧客要求の中で、製品の品質や性能的なものは当然要求すると共に、「環境に配慮した製品にしてほしい」「廃棄がしやすい方がいい」といった課題やニーズがあるとします。そのような場合は、例えばエコ調達やグリーン調達を進めようという風に、QMSの範囲を広げて使ってみてもいいと思います。
いま挙げたものは、どちらかというと気候変動に「与える影響」の対応にもなります。それを箇条4.1「組織及びその状況の理解」の要求事項への対応と絡めるのもいいのではないかと思います。
また、気候変動に「与える影響」より、「受ける影響」の方が考えやすいかもしれません。例えば、夏に作業場がとても暑くなって、作業効率が悪くなると、労働安全衛生もそうですが、品質の面から見ても、生産計画や納期に影響しますので、作業環境を良くするなど何らかの対応をするとします。通常、これは納期という品質を満たすための活動ですが、広げてみれば気候変動にも関係するといった捉え方ができます。

箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」に関する関連

例えば今、豪雨などの天災が多いので、災害に強い製品が世の中には求められています。すると、気候変動に関わる課題として、豪雨などの天災に配慮した製品を作るという開発目標を立てるとなると、それは品質目標と関連づけたことになります。

特にマニュアルに入れる必要はない

箇条9.3「マネジメントレビュー」の記録に、インプットとして環境や気候変動に関わる情報が入っていれば、認証審査の時にひとつのエビデンスとして見ることができます。
また、常にマネジメントレビューでということではなく、箇条4.1や4.2を受けて、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」や箇条8.3「製品及びサービスの設計・開発」でもインプットとして入ります。他にも品質目標などいろんな目標に取組む際に、気候変動についてどんな動きや課題があるのかを考えて議題に入れることで、何かしらの記録が残ります。
ただ、今年は気候変動を検討したけれども、来年はやらないことにしましたというわけにはいかないので、継続的に行うことが大切です。

その他の対応

例えば、大手企業ほどEMSの活動もしているので、そちらで取組んでいると説明してもよい。企業の活動として、適用範囲に入れておけば大丈夫です。逆にEMSの箇条6.1.4「取組みの計画策定」で、説明してもいい。また、統合マネジメントシステムの中で整理することも可能です。

気候変動への対策として、温室効果ガスの排出を減らす「緩和」と、気候変動の影響に備える「適応」、この2つの考え方で対応していけばいい。
その2つで何ができるのかを、自分たちの領域で考えることが重要です。特に顧客要求事項と法令規制要求事項の中で考えると、よりやりやすいと思います。
顧客も社会も環境に配慮したものを求めているから、それもニーズだと捉えて、製造の中でコストやCO2を減らそう、エコ調達やグリーン調達を進めようという風に、ISOの範囲を広げて使ってみてもいいと思います。